2023.06.30
刺しゅう糸だけで作った原寸大の「ゴッホのひまわり」を見てきた
こんにちは。刺しゅう研究員の瀬戸内キャンパーMASAKIです。
タイトルの通り、今日は原寸大のゴッホのひまわりを、全て刺しゅうで再現した作品を研究してみようと思います。
ちなみに刺しゅう研究員というのは、世界中の刺しゅうを研究することで、趣味やファッション、生活雑貨など、さまざまな角度から日本の刺繍文化レベルを高めて、皆さまの生活を豊かにしちゃいましょう!という仕事です。
あいにくの雨模様で、心なしか表情もどんよりしていますが、皆さまのためにも元気を出していきたいので、どうぞよろしくお願いします。(ぺこり)
目次
いざ刺しゅうギャラリーへ!
ギャラリーに入っていきなり何かが目に飛び込んできました。
む~ん?
むむむ??
な、な、なんじゃこりゃー!?
いきなり大げさな感じですみません。だって、思ったより大きかったので。
あまりの驚きで、いい感じで花瓶を持った風のポーズになってました。
いや~、ここまで大きいとフォトスポットとしても色々と楽しめそうですね♪
見とれてしまって( ゚д゚)ポカーンとなってしまったMASAKIの図。
改めてじっくり見てみると、本当に大きいです。それもそのはず、縦1メートル×横76センチもあるんですね。驚きました。
しかも糸だけで表現されているので、見る角度によって表情が変わるんですよね。
近くで見て触れるのも刺しゅうならでは。ゾワっとするほど無数の糸が張り巡らされてて、どれだけ糸が使われているのか想像つきません。
いや~、なかなかエグい作品っすね。
作品を見ながらティータイム。
ゴージャスかつリッチな気分を楽しむことができて本当に良かったです。
久々にインテリジェンスが刺激されたので、ゴッホのひまわりを少し勉強してみました。
フィンセント・ファン・ゴッホ (1853~1891) ひまわり 1888年 100.5×76.5cm SOMPO美術館所蔵 1888年2月、ゴッホは南フランスのアルルにむけてパリを出発する。彼はそこで画家仲間との共同生活を計画し、指導者として敬愛する画家ポール・ゴーギャンを招待しました。ひまわりはゴーギャンの到着を待ちながら、その部屋をかざるために描かれたものです。ひまわりは、この8月に描かれた1点目の「黄色い背景のひまわり」(ロンドン:ナショナル・ギャラリー蔵)をもとに、実際にゴッホがゴーギャンと共同生活を送っていた1888年11月下旬から12月上旬ころに描かれたと考えられています。基本的な色や構図はロンドンにある作品と同じですが、タッチや色調は異なっており、ゴッホが単なる複製を描くのではなく、考察を重ねながら本作に取り組んだことがうかがえます。 |
ひまわり持参で製作現場へ!
それでは製作現場へお邪魔してみましょう。
ちょっぴり目が危ない感じなのは元気がでてきた証拠。刺しゅうで作るゴッホのひまわりの製作現場ということで、花を添えるために自宅に飾っていた本物のひまわりを、奥さんに内緒で持ってきました。
奥でPCに向かっている、この道30年のベテラン刺しゅう職人のNさんも、心なしか笑いをこらえているようにも見えますね。ひとつウケが取れて良かったです。
まず初めに見学するのは開発部。ゴッホのひまわりを刺しゅうミシンで縫い上げるのですが、そのミシンを動かすための「刺しゅうデータ」が無ければミシンはピクリとも動きません。その刺しゅうデータを作るのが開発部なんですね。
最初に、ひまわりの絵をスキャンし、コンピュータグラフィックで色や風合いを解析します。そして、刺しゅうデータをつくる専用のソフトで、刺しゅうするときの糸の流れや密度などを計算しながら部分的に刺しゅうデータを作り、テスト用のミシンで試作します。
イメージ通りの色や風合いが出るまで何度も試作を繰り返して、作品全体の仕上がりの方向性が決まると、いよいよ縦1メートル×横76センチの巨大な刺しゅうデータの製作へ進み、ついに刺しゅうデータの完成です。
この作業のなかでも試作が一番大変で、仕上がりのイメージに近づくまでの労力がハンパないらしいです。ちなみに今回のひまわりの刺しゅうデータを製作するのに、約2週間ほど掛かったそうな。
いや~、なかなか地道な作業ですね!
刺しゅうデータを試作する段階では、同時に糸の色を選ぶ必要があります。今回、油絵的な立体感と光沢を出すためにチョイスしたのがレーヨン糸なのですが、755色の中から実物のひまわりに近づけるために、これまた何度も試作を繰り返すわけです。
実際に色を選んでみると、黄色系の糸だけでも似たような色がめちゃくちゃあって、バッチリな糸の色を探し出すのは超大変!
さすがの刺しゅう研究員の瀬戸内キャンパーMASAKIも思わずダメダコリャ!
「ひまわり散る」状態になってしまいました。
タナベ刺しゅうでいざ実践!!
刺しゅうデータが完成して、糸の色も選び終えると、いよいよ実際に刺しゅうが始まります。刺しゅうミシンにはそれぞれ刺しゅうできる面積が決まっていて、面積の小さなものと大きなものをデザインや刺しゅうの内容に応じて使い分けます。
と言っても、さすがに縦1メートル×横76センチを一度に刺しゅうできるミシンはありません。タナベ刺繍には最大面積1メートル×68センチのミシンもありますが、惜しくも面積が足りなかったので、今回は全体を4分割して完成を目指します。それでも50センチ×38センチと、刺しゅうではかなりの大物。
そもそも、「ミシンで縫う」ということは糸の張力が働くので、大きい面積や縫う量が多くなればなるほど、全体に掛かる張力はとんでもないことになります。その張力で刺しゅう(生地)が縮んだり、歪んだり、波打ったり、柄ずれしたりするので、綺麗な状態に縫い上げるのは至難の技なのです。
刺しゅうデータをミシンにセットして、糸をセットして、スイッチポン!と思っていたMASAKI。「なめんなよ!」とミシンを使う刺しゅう職人さんにこっぴどく叱られていました。
そんなMASAKIを尻目に、ミシンはどんどんゴッホのひまわりを縫い上げていきます。どんどん縫い続けて、ダダダダと縫い続けて・・・
で、これいつ完成するの?
はい、準備や仕上げを含めて約1週間だそうです。
マジか~、ミシンなので1日くらいで完成するのかと思ってた。1週間もかかって刺しゅうして、もし失敗したらとんでもないことになるな~
こんなチャレンジングなお仕事を日々乗り越えている職人の皆さんには、本当に頭が下がる思いです。「軽く考えてて、申し訳ございませんでした!」
そんなこんなで、以上が原寸大のゴッホのひまわりを刺しゅうでつくる製作現場の研究結果になります。
最後の記念に、はいチーズ!
ありがとうございました!
まとめ
原寸大でゴッホのひまわりを刺繍ミシンで再現できるのは、長年培われた技術とチャレンジ精神のたまものでした。
絵をスキャンし、色と風合いを解析ながら試作を繰り返すという地道な作業から始まり、試行錯誤を重ねて刺繍データが完成します。同時に膨大な色数の糸から適切な色を選び出す、根気とセンスが必要とされる作業があることも分かりました。
刺繍データと糸の色が決まり、刺しゅうが始まっても、大きな面積を刺繍する際の糸の張力の制御は、まさにプロフェッショナルの技術が求められる難題。ひとつひとつの問題を解決するノウハウがあって初めて完成させられる作品であることが確認できました。
刺しゅうで再現した原寸大のゴッホのひまわりは、刺しゅうギャラリー「瀬戸内刺繡美術館」として、一般の方も見学いただけます。ご興味のある方は是非お越しください。
瀬戸内刺繍美術館 SETOUCHI EMBROIDERY MUSEUM 場 所:〒769-2604 香川県東かがわ市西村1023(株式会社タナベ刺繍) 開 館:平日(土、日、祝を除く) 開館時間:10:00~12:00、13:00~17:00 入 場:無料 |