2023.03.01
手ハンドルミシンなどの、サガラ刺繍に使うミシンをじっくり観察してみた。
「手ハンドル」と呼ばれるミシンをご存知ですか?
サガラ刺繍はシェニールとも呼ばれ、チェーンステッチとパイル状のループステッチで柄を描く人気のテクニックです。今回は中の人のお気に入りである「手ハンドル」と呼ばれるサガラ刺繍用のミシンをじっくり観察してみました。※手回しミシンではありません。
目次
手ハンドルミシンとは
手ハンドルみしんは、こんな感じのレトロでメカメカしい感じです。(前カバーは外しています)
これだけでは分かり辛いので、工業用の本縫いミシンと比較します。
全体的なフォルムは同じように見えますが、細かく見ていくと手ハンドルとは全然違うことが分かります。(上:本縫いミシン/下:手ハンドルミシン)
手ハンドルのミシンメーカーは「TREASURE」
アップで各部分を見てみます。
テール部分。なんだか複雑です。
テールとヘッドのジョイント部分。シャフトが2本あります。
フロント部分。やけに複雑です。
布押さえ部分。本縫いミシンとは作りが全然違います。
今度は針板を外してみます。ちなみにネジ1本で外れました。
どんな釜があるのかと思いきや、小さなカタツムリみたいな物がありました。
ちなみに、本縫いミシンの釜はこんな感じ。写真は刺繍ミシンのものですが、釜の形状は同じです。
刺繍機と縫製用ミシンの違い
「本縫いミシン」と「刺繍ミシン」の違いは、本縫いミシンは生地同士を縫い合わせることが主な目的なのに対して、刺繍ミシンは縫うことによって柄を描くことが目的です。
なので、本縫いミシンは「送り」と呼ばれる部分で生地を同じ方向に送り続けるだけの単純な構造ですが、刺繍ミシンは「枠」と呼ばれる道具に生地をセットして、縫うと同時に枠が360度方向に動き回ることで柄を描く構造になっています。
手ハンドルの用途
縫製用ミシンには大きく「本縫い」と「環縫い」というジャンルがあり、目的によって使い分けます。
手ハンドルとは、環縫い(チェーンステッチ)というジャンルで、サガラ刺繍と呼ばれる刺繍をするための特殊なミシンのこと。本縫い刺繍機と同じく全方向に動く必要があるために、こんなに複雑な構造になっているのです。
また、ヘッド上部にボビンをセットして針棒の中にテープ等を通すと、なんとコード刺繍もできちゃいます。
ミシンテーブルの真横から。手ハンドルという名前の所以が一目でわかります。
どうやって柄を描くかというと、写真右下にある取っ手のような物を握り、縫いながらクルクル回すとあら不思議。ミシンヘッドの布押さえと針棒が一緒に回転するではあ~りませんか!
※手ハンドルは布押さえが生地送りの役目をするので、布押さえが回転すると縫う方向が変わり、自由に柄を描ける。
こうやってハンドルを「手」で回しながら縫うミシンなので、「手ハンドルミシン」という名称になっていたんですね。
下から見たハンドル部分。
釜(ルーパー)部分の裏側。糸が入っていくところですね。
サガラ刺しゅうの今
ちなみに近年では、この「手ハンドルミシン」も自動化と高機能化、そして多色化と多頭化されていますので、ついでに刺繍工場の設備をご紹介。
こんな感じです。針棒は手ハンドルの面影が残ります。メーカーはタジマ。
写真は、サガラ刺繍と本縫い刺繍(ジャガード刺繍)がミックスされた刺繍ミシンです。
前カバーを外しました。
ミシンヘッドの構造。手ハンドルとは違いますが、複雑さは同じですね。
ミシンヘッドの上側。
枠が動いて柄を描くので、布送りをするための布押さえは必要ありません。
針板を外して、中を覗いてみます。
釜(ルーパー)が沢山あって、これが移動して糸の色を変更します。形状も少し違いますね。
手ハンドルもサガラ刺繍機も、ミシンの下に糸をセットします。
釜(ルーパー)の裏側はこんな感じ。
いかがでしょうか?
サガラ刺繍の機械の歴史や構造がなんとなく分かってもらえましたか?
まとめ
刺しゅうミシンが自動化される以前は、刺しゅう職人が手ハンドルミシンや横振りミシンなどを使って一枚ずつ手作業で模様を描いて刺しゅうを仕上げていました。その時代から手ハンドルミシンによるサガラ刺繍があり、チェーンステッチとループステッチの縫い分けなど、基本的な構造はミシンの自動化が進んだ現在でも変わりません。
タナベ刺繍では早くから新しいサガラ刺繍機を導入していましたが、機械の構造やサガラ刺繍を研究するために手ハンドルを置いています。
また、刺繍データを作る必要が無いので、ちょっとした試作やイメージ作りにも手ハンドルで相良刺繍を縫ったりします。チェーンとループの使い分けは手ハンドルでもできます。
しかし、なんといっても、あのレトロでメカメカしい雰囲気がたまらない手ハンドルミシンの存在は、私たちに勇気と創造性を与えてくれます。
これからも、古きものも大切にしながら、刺繍の世界を彩り続けていきたいなと思いますので、ご質問などありましたらお電話又はお問い合わせフォームよりご連絡ください。