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2019.02.18

エスニック風刺繍

刺繍は糸と針という簡単な道具で行えることから、染色や模様織よりも歴史が古いと言われています。言わずもがな、世界各国の様々な民族が、それぞれの暮らしや社会の中で刺繍という文化を育んできました。その後の長い歴史の中で人の暮らしや価値観、社会の変化に合わせて技術や意味を変えながら、刺繍は今なお人々を魅了しています。

改めて「エスニック」というトレンドを今の刺繍屋さんの視点で見てみました。

「刺繍自体がエスニックのイメージに近いと思う。よくある民族柄を縫っただけでは何の新しさもないね。あくまでエスニック・テイストを取り入れるというスタンスで、新しい刺繍技術を使った、新しい見え方がする刺繍を作ろう」

ということで、今回の刺繍が生まれました。

まずはその全体像を、4つの配色を見比べながら見てみましょう。

◆ホワイト

彩度が高い色を多く使った、明るく楽しい見栄えのする配色。

補色関係にあるオレンジ・グリーンを多めに使うことでメリハリが出て、元気なイメージを持たせます。淡い水色がバランスよく入ることで、夏の爽やかさが出て、全体の雰囲気に丸みが出ました。アクセントに濃い色を持ってきているのが面白みを出すポイントになっています。

キーワード:POP、ユーモア、ユニーク、ワクワク、明るい、カラフル、ライト
カラー:インディアンイエロー、ベビーブルー、グリーン、ウルトラマリンブルー、パイナップルイエロー、パープル

◆ホワイト

青系の同系色を使った、落ち着いた印象を与える配色。

スカイブルーやアイスグリーンといった淡い色を多く使い、小さな刺繍にウルトラマリンブルーやオリーブグリーンといった濃い色を持ってきています。爽やかでクール、柔らかい印象を持たせるとともに、シックな大人らしい深みも出ています。

キーワード:クール、爽やか、おとなしい、知的な、若い
カラー:スカイブルー、ウルトラマリンブルー、ライト・レモン、アイスグリーン、オリーブグリーン

◆グレー

グレーの生地に茶色系統の色を多く使った、大人な雰囲気の配色です。

全体的にまとまりがあり、落ち着いた、余裕のある雰囲気を感じさせます。
小さな刺繍の淡いイエローが軽やかさを、スパンコールのマットゴールドがリッチな印象を与えます。

キーワード:大人、円熟した、落ち着いた、楽しみ、リッチ
カラー:コーヒーブラウン、ムーンストーングレー、ハニーイエロー、マットゴールド、シェルピンク

◆ネイビー

ネイビーの生地に、青紫を中心とするディープな色を多く使った、ミステリアスでマジカルな配色。濃淡の配色が闇に浮かび上がる星のようにも見え、大人な雰囲気の中に軽やかさや楽しさも感じさせる配色となっています。

キーワード:ミッドナイト、ギャラクシー、ミステリアス
カラー:ディープロイヤルブルー、ウルトラマリンブルー、パールホワイト、サンドベージュ、シトラスイエロー、オリーブグレイ

◎デザイン

あくまで「エスニック風」なのですが、実はこのデザイン、海辺のイメージが元になっています。というのもこの刺繍を企画した社員は、幼い頃によく地元の海辺で遊んだのだそうです。そこで見たり触れたりした海の自然のイメージが映されています。結果的に、デザインからしても今までに見たことがない感じ、自然や経験がイメージ源になったという、あたたかい人間的な感じ(=エスニック?)が出た刺繍です。

◎テクニック

10種近い刺繍テクニックをふんだんに使った、とてもユニークで表情豊かな作品です。直径5ミリほどの小さな丸い立体刺繍から、幅4センチ前後のアップリケまで、大小様々な刺繍を凝縮して配置しています。

それでは各パーツを見ていきましょう。

◎モチーフと縫い方

①ふじつぼ・しじみ・泡

形を星型や楕円型、泡やドーナツのような輪っかにしています。縁だけを立体にしたり、縁の内側を平たく縫うところが、ボルダリング刺繍の発想を応用しているところです。

ポコポコした立体は、見栄えとしてだけでなく触っても楽しめます。

そこにラスター(立体刺繍の上にスパンコールを乗せる縫い方)やグリッターステッチ、立体加工なしのスパンコール刺繍を混ぜることで、面白みをプラスしています。

②波紋・石

こちらはサテン生地のアップリケ。上からランニングステッチで環状に縫うことで波紋の感じを出しています。

写真に取り上げていませんが、チュール生地のものもあります。少し透け感が出ます。

このようにアップリケ生地の素材を工夫することで雰囲気が変わります。さらにアップリケの上に刺繍をしたり、逆にチュールの場合はあらかじめ刺繍を下に入れておくことによって見え方に深みが出ます。

③マツバガイ

今回初めて縫った縫い方3つのうちの1つ目です。

これは縫い幅を広くとり、楕円上の点と点を結ぶように縫っています。それを何色かの糸で、ランダムに交差するように縫うと、上の画像のようになるのです。

遠くから見ると、少しだけモザイクがかかったように見えます。

④二枚貝

今回初めて縫った縫い方3つのうちの2つ目です。この発想源は、色のにじみを活かした幻想的な刺繍表現にあります。

ぼかした感じを出すために、チュールのアップリケとフォトステッチをアレンジしたものを組み合わせています。

フォトステッチは、専用ソフトを使って写真を刺繍データに置き換え、刺繍で表現する方法です。色数と針数を十分に使うことによって細かく複雑な色の変化を表現するのに向いています。

しかし、専用ソフトで自動変換しただけでは忠実に変換しすぎてしまい、針数が多く硬くてのっぺりとした仕上がりになってしまいます。この作品で表現したかったのは、あくまで「ぼんやりとした」「軽い」「柔らかい」印象のグラデーションです。

そこで、データをそのまま使うのではなく、針数を大幅に削りました。

さらに、チュールのアップリケを使い、刺繍の上にチュール、その上からまた刺繍をしています。そうすることで「ぼんやりした」「軽い」色の変化が可能になりました。また、チュールの色が薄く入るので生地を塗りつぶすように縫う必要も無くなり、コストを減らすことができるのです。

幻想的でミステリアス、少し不安定な感じもする縫い方です。

⑤泡・クラゲ

今回初めて縫った縫い方3つのうちの3つ目です。

透け感を出す刺繍として試みました。

縫い付ける元の生地に穴をあけ、そこを縁取るように環状に刺繍が走っています。

そして生地のない部分を編むように縫うことによって、レースになるのです。

レースの透明感、糸の繊細さが、夏らしさを醸し出します。

※生地に穴を開けない縫い方も可能です。

⑥砂・泡

砂つぶや泡を連想させるシンプルなピンク色のランニングステッチ。また、大きいモチーフの周りを走る茶色のチェーンステッチ。

これまでご紹介してきた大小様々なモチーフの間を繋いでいます。繊細なイメージを持たせます。

◎まとめ

①新しい刺繍を使って新しいエスニック風加工ができる

エスニックを刺繍で面から表現することができます。これまでのタナベ刺繍が研究してきた豊富な刺繍テクニックが盛り込まれ、新しい見え方になります。

②データ配置・改良が柔軟

襟ぐりなど、ご希望の刺繍範囲に合わせてデータの組み直しが可能です。また、用いる刺繍テクニックや、刺繍の形なども改良できます。


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